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色なき地

色なき地

連日、ロシアによるウクライナ侵攻という理不尽な戦争の映像が流れる。 終わりは未だ見えない。 世界中が心を痛める。

この映像を目にして思うことがある。 総じてそこには色が無いのだ。 戦車や破壊された建物、そこから露出した地面は全て黒っぽい灰色か茶褐色だ。 まるで赤茶けた昔の白黒写真を見ているようだ。 そしてこの色なき色は、その悲惨な現状をつぶさに表わし、見る人の心にもその色を植え付ける。 それは悲しみの色さえも生まれない不毛の色、絶望の色だ。 これが戦争の色なのだろうか。

25年以上前、阪神大震災で被災した際も被災直後の外の景色は一変した。 それはやはり灰色に近かった。 しかしその時は戦争ではなく天災だったから事情は全く違った。 壊れた家の中には日常と同じ色があったし、周りの人の心も温かい色に満ちていた。 
ただ、建物は全て傾いていたので、被災していない町や海外に行った時には、全ての傾きの無い建物が、当たり前ではなく一つの不思議として目に映った。 その時、当たり前に慣れてしまうことに驚異の念を抱いた。 地震前の傾いていない建物が当たり前だったことも、地震後の傾いた建物に囲まれていたしばらくの間に、それが当たり前になっていたことにも驚いた。

今、様々な色に囲まれて暮らしていることが当たり前になっている。 戦場からはその色を奪われた映像が送られてくる。 
改めて周りを見直す。 そこには無意識に目に入る何種類もの色があって、一つ一つの色が心の襞に根をおろす。 それがさらに延びていつの間にか私たちの感情を揺り動かしていたりする。 そんなことに気付き、それが平凡な、しかし大きな幸せだということに気付く。

心に映り、心を映す色はかけがえのない幸せの道具だ。

1日も早く戦場にも色が戻ってほしいと切に願う。