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春爛漫

春爛漫

ようやく冬が終わり、気候の不安定な3月を抜けると、一斉に花が咲き乱れた。  春爛漫である。

今年はこの季節の到来が嬉しい。  双手を挙げて素直にこの季節を迎え入れる自身の姿に驚きとともに、静かな喜びが湧く。
花とともに、世の中の動きも活発になる。  新たな学期を迎える子供たち、新たに社会人となる若者、 新たな職場で再スタートする人、そのような動きが社会に活力を与えている。  私もまた、咲く花の力とともに内向きだった気持ちが外に向かうのを感じる。
そんな私たちに花はエール送ってくれているようだ。

近年、私の内的状況は変わりつつある。  年齢を重ね、去来するのは全力で疾走してきた過去の日々の思いであり、出会った人たちであり、その人たちの生き様であり、そして何よりも数えきれないほど経験させていただいた様々な地での演奏会だ。
以前は「今を生きること」、「未来を切り開くこと」、「 未知の経験を積み上げ進化すること」などが私の内面を占め、そこには前進するためのエネルギーが満ちていた。
今、 過去の経験や思い出を反芻することによって、懐かしさとは違った穏やかな、しかし、深いエネルギーが私の中に満ちる。  言い換えると、過去の経験や思い出が肥やしとなって、次のステップへの力を得ている。  内向きとも見える過去の追憶だが、いつかそれが外向きの力となって、明日への歩みを作っていく不思議な流れだ。  これが人生の最終楽章を生きることなのかもしれない。  そう思うと感慨深いものがある。

春爛漫の今、 華やかに咲き誇り、全身で生きるエネルギーを放っている花たちもまた、それは長く寒い冬の季節を耐え忍んだ末の栄華なのだ。
短い花の生命ではなく、長い花の生命の一場面なのだろう。  それが最高の美をもたらす。 素晴らしい。

人の生命もそうありたいものだ。