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遥かなる旅へ

遥かなる旅へ

1年ぶりに旅に出る。
もう何年も、何十年も毎年旅をしてきた。  しかし私の旅は観光旅行ではない。  コロナ危機までは毎回演奏旅行だった。  それなりにワクワクしながら、また緊張しながら、いつも旅支度をし、あたふたと飛行機に乗った。

演奏会の開催される地に行き、その街を眺めるのが私は好きだった。  そこで人々はどのように暮らしているのか、朝市では どのような食材が並び、各家庭の台所ではその食材を使った珍しい郷土料理がどのようにして珍しい1皿となるのか、子供たちは学校のあと、どんな風に時間を過ごすのかなど、その土地に暮らす人々の日常に興味が尽きなかった。  演奏会を通じて、また散策を通じて人と出会い、心の交流が生まれる。  日常の習慣や言葉は違っても、どこかで共感し、心が通じ合う。  暖かいものを感じるたびに、私は地球は丸くて1つだと思った。

コロナで演奏会は途切れた。
コロナの間、私はそれでも旅をした。  ただしそれは家に篭っての「心の旅」だった。  毎年次々とプログラムを組んでは走り続けてきた後の「心の旅」は思いの外、心地良いものだった。  今までの多くの体験をゆっくりと反芻したのだ。  そこに思わぬ気づきがあったり、見えていなかったことがうっすらとその姿を現したりした。
そして、その反芻はコロナ禍が終わった今も続いている。  何十年と続けてきた演奏旅行の末に実ったその果実をゆっくりと味わうように。  それが一つの栄養となって、これからの演奏の姿を変えていくだろう予感も感じ取れた。

コロナ禍が終わり、今回は2回目の旅行をした。  それは40年余りの演奏旅行を想いながら、コロナ禍での「心の旅」でさらにそれを反芻したものを確かめる意味で、答え合わせの旅でもあった。
数々の旅での経験が、今では目に見えない私の大切な財産となっていることを私は確信した。

世の中は変わり続ける。  私も歩み出した。  これからは、また違った景色を見ながら旅を続けるだろう。  胸に収めた財産を熟成させながら、今度はどのような旅をするのだろう。