アレクサンダーテクニックは、まず今までの習慣を捨て去り、ニュートラルに立ち戻ることから始まる。 身体に染み付いた習慣は無意識に身体を動かしていることを含めると、数えきれないほど多い。 それは、人間がハイハイから、ヨチヨチ歩きになって、二足歩行を試みる時から始まる。 ちょっとした首の角度、支えようとする筋肉の使い方などだ。 成長するにつれて、習慣の上に習慣の上塗りが重ねられ、人は様々な習慣の衣で覆いつくされる。 たとえ悪い習慣であっても、慣れているとそれが心地よく、思い込みも手伝ってつい、正当化してしまう。
この、ニュートラルに立ち帰るということは、本当に難しい。 しかし、奥は果てしなく深いものだ。 試みていくにつれ、今までの常識や発想が次第に覆される。 それは身体も心も同じだ。 思い込みというものがいかに愚かで危険なものかを痛感する目が与えられる。 習慣の衣を捨て始めると世界が変わっていくのが分かる。 やがて、身体も変わっていくのが分かる。
このアレクサンダーテクニックの素晴らしさやその効果が特に感じられるのは、楽器を演奏する時と、身体に何らかの故障を持つ時だ。 だから、アレクサンダーテクニックの教師には音楽家や、身体の故障を経験した人が多い。
私も故障を持った音楽家だった。 そして、何度もこのテクニックに救われた。 これからもそうだろう。
そこに見えるものは、他の偉大なものと通じる真理であり、複雑な理論を持たないシンプルな道だ。 ひたすら、身体と心に向かい合う。 一見地味だが、地味ゆえに真理を真っ直ぐに堀り進んでいく。 それは音楽の道に重なる。 多くの音楽家に学んでほしいテクニックだ。