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習慣を捨てる

習慣を捨てる

腱鞘炎をはじめとする手の故障に長年苦しんだ。  それを嘘のように救ったのがアレクサンダーテクニックだった。

シンプルに見えて、実はとてつもなく奥が深いのがこのテクニックだ。 その入口は、まずニュートラルに立ち帰るということだ。

ニュートラルに立ち帰るとはどういうことなのか。
それは、今まで長い時間をかけて知らず知らずの間に身に付けてきたものを剥がしていくということだ。
身に付けてきたもの。 それは一言で言うと習慣や癖だ。 積み重ねていくうちに、それが不合理なものであっても、心地よくなる。 慣れるからだ。  それがまた次の習慣を生み出していく。 またそこに安住する。
 
そんなことを繰り返している間に、身体は取り返しのつかない状況に陥ることが多い。

その一つ一つの習慣を ”抑制” していく。  これは大変な作業だ。 本人が気が付かない間に身に付けた癖は限りない。  楽器を演奏する時はもちろん、生活の中で歩く時、話す時、その他、あらゆる場面で人は身体を無意識にその人の癖でもって動かしている。 それをまず、ニュートラルに戻し、そこから無理のない、合理的な身体の使い方を学ぶのだ。 アレクサンダーテクニックの教師達は、注意深く、無理なく自然に正しい使い方へと導いていく。

私がこのテクニックと出会って、得たものは多い。  この、習慣を抑えて元の点に戻ることもその一つだ。 
それまで 「努力」=「進歩」 という単純な図式が私を支配していた。  これが子供じみた思い込みであったことに気付かされた。  つまり、 「努力」=「退歩」 だってあり得るのだ。
良かれと思っていた習慣や努力が実は私を負の方向に歩かせ、苦しめていたことが分かった。  
例えば集中することは大切だが、集中することで脳を含めた身体の大切な部分が硬直する。  硬直すると周りは見えなくなる。 周りの声や音も耳に入らなくなる。 発想も乏しくなる。

これは私の専門分野であるピアノ演奏には勿論、人との交わりにおいても、ものの価値観においても、全てにあてはまることだった。

こうして、このテクニックとの出会いのおかげで私の身体も、ものの見方も、考え方も変わっていった。

習慣を捨てる。 思いもよらない発想だったが、思いもよらない実りも多い。