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調律と演奏

調律と演奏

このコロナ下で、いつも関東から来て頂いている調律師氏にピアノをみてもらえなくなって、もう1年以上が過ぎた。

私は若い頃からよく弦を切っていたので、その頃は毎回、弦張りに来てもらい、張りたての弦はすぐに狂うのでまた何度も足を運んでもらわなければならなかった。しかし、そんな手間をかけたのはほんの少しの間だけだった。すぐに、調弦のためのハンマーを渡され、自分でやってくださいと言われたのだ。興味津々だった私は二つ返事で承諾し、そのうちに弦の張り方も教えてもらい、音の合わせ方なども学んでいった。必要な道具は全て揃えてくださった。それは留学してからもとても役に立った。今でも、調律師が簡単に来てはくれないイタリアで、いつも道具を持ち歩いて、本番前のひどい狂いは素人ながら耐えられる程度に直している。今では、弦が切れても自分で張っている。

ところが、今回のコロナ下では苦労している。ピアノの老朽化もあって、高音部がすぐにひどく狂うのだ。素人が直しているので、なおさらすぐに狂う。

ピアノの調律というのはユニゾンが一番難しいと言われる。ユニゾンに始まり、ユニゾンに終わるというくらいだそうだ。私もそのユニゾンに苦労している。ピアノの中音から高音にかけては一つの音に3本の弦が張ってあり、その3本の音をきっちり合わせないといけない。ユニゾンは同じ高さという意味で、この3本を2本ずつ合わせていき、最後には3本で一つの高さにする。それがとても難しい。合っていると思っても、実際に弾いてみると、酷く狂っている。

つい、愚痴をこぼすと、調律師から提案があった。機械を側に置いて数字で合わせたらというのだ。スマホやタブレットにインストール出来るものがあるという。

そうこう考えているうちに、私はあることに気が付いた。私は演奏するために、耐えられない音の狂いを直している。その時、耳は演奏家の耳だ。調律は少し違う。基本的にうなりを聞くのだ。そして、毎日悪戦苦闘してユニゾンを合わせているうちに、私はその耳の違いを実感した。しかし普段は調律用の耳からすぐに演奏家の耳に戻さないといけない。というより、調律用の耳では音楽ができないのだ。それを両方持つことは私にはとても難しいことのように思われた。やはり、応急処置に留まってピアノの機嫌をとるしかないことが分かったのだ。
そこで私は提案された機械を買わない決断をした。

早くコロナが収束して安心して専門家に来てもらいたいと毎日首を長くしながら、渋々ユニゾン合わせに格闘している。