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冬支度

冬支度

12月に入り、急に冬らしい空気に包まれた。
いつものように朝の練習に入る。私は2台並べたグランドピアノの右の方の楽器で弾いている。もう20年以上前に一生懸命お金を貯めて、ようやく手に入れた憧れのスタインウェイB型だ。左には私が学生時代に購入したヤマハC3Bがある。これもなかなかの名器で、買った当初からずっと気に入って弾いていた。今はレッスンに来る生徒さんたちが弾いている。
いつも、古くからの同志が左側で見守っていてくれるような気持ちになりながら、毎日の日課をこなす。

先日、弾きながら何か赤い色が目に入った。視界の左の方だ。一瞬、私は左の窓の外で火事が起こったかと思った。たしかに外は赤い。そして、ふと隣のヤマハの鍵盤の蓋に映った赤を見て私は納得した。外に繁る紅葉の赤がピアノに映っていたのだった。

玄関脇にようやく1本だけ残っている昔からもみじの木は、毎年芽を出すとほっとして、また今年も頑張ってね、と言いたくなるほどの老木だ。
もう、周りは紅葉もその名残があるばかりで、美しさもずいぶん前にピークを越えた。そういえば、我が家のこの老木の紅葉ブリを今年は注目してあげなかったことに気が付いた。

しかし、彼は今その落ちる前の赤をピアノにまで映してその健在ぶりを表している。
これからは嵐や雨のたびに、その赤も褪せた葉を落としていくのだろう。

今年も精一杯輝いたのね、お疲れ様。また来年元気に芽を吹いてね、と私はそのピアノに映った赤を眺めながら心の中で老木に語りかけた。