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秋の雲から

秋の空は美しい。そこに浮かぶ雲は様々な姿を見せて、空を眺めていると時の経つのを忘れてしまう。空高くに一面に広がる鰯雲や、低いところに浮かぶモッコリした雲の塊は、見る人の想像力を限りなく刺激して、楽しい幻想に浸らせてくれる。
雲を見ていると、現実から離れ、想いに任せて暫し旅をする感覚になる。幼い頃から変わらずに持っているメルヘンの世界が顔を出す。心の片隅にいつもそっとしまっているものだ。久しく会わなかったそんな世界がとても懐かしく、新鮮に思えていつも私はそんな短い時を楽しむ。

度々、飛行機で海外に出かける際、いつもそんな雲を突き抜けて機体は上昇したり、下降したりする。雲を抜けるとそこは一面の雲海だ。機体が下降を始めて、雲海の中に入っていく前には私はいつも少し緊張している。何度も経験しているのに、雲の中はどんな風になっているのだろうかと思う。しかし、現実には大抵それは平凡な光景で、これが地上から見る者にあんな夢を与えていたものなのかと、やや失望する。やはり、雲は遠くから眺めるものなのだ。

下から眺める雲と同じく、私の中には遠くから眺めて幻想のまま取っておきたいものと、実際に入っていく雲海のように、そこに飛び込んでその現実と一体になって関わっていきたいことがある。どちらも私の中では大切にしたいものだ。正反対の性格を持つ両者だが、それは心の中に陽だまりと木陰のような存在で共存している。幼い頃は、幻想の世界がほとんどだった。やがて、現実的に関わる世界が殆どになった。歳を重ね、人生の終盤に差し掛かる頃には、またその割合は幼い時代に戻っていくのかもしれない。

こんな事を考えながら、この秋も雲を眺める。