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体験の新鮮さ

ピアノとアレクサンダー・テクニックの重なる点はたくさんある。

その一つは、頭で理解することと、実際に体験することに大きな違いがあることだ。

ピアノは楽譜が読めて、鍵盤の位置が解っていても、簡単には弾けない。アレクサンダーテクニックは、解説書を読んでも実際にやってみることとは大きく違う。だから、ピアノもアレクサンダーもレッスンがその上達や理解において大切なものになってくる。

ピアノのレッスンで生徒さんに伝えたいことが頭の中に一杯あり、一所懸命、言葉を選びながら説明する。情景を一枚の絵に例えたり、映像に置き換えたりしてみる。しかし、そこで弾いて聴かせてみると、そこに現れた音の魅力に私自身が一番驚くことがある。言葉や絵や映像とは比べ物にならないもの、想像を超えたものがそこに表れているからだ。その音はきっと生徒たちの感性を刺激して、彼らの想像力を膨らませ、音の表現に繋がっていくのだろう。今でなくても、時間がそれを発酵させるかもしれない。だから、私は出来るだけ何度も弾いて聴かせるようにしている。

アレクサンダー・テクニックでは、身体で覚える事が大切だ。すぐに理屈で理解したり、判断したりする頭はできるだけ通さない方が良い。アレクサンダー・テクニックでのテーブルワークは不可欠だ。それは身体がキャッチする重要な体験であり、そこには様々な真理が詰まっている。音楽で言うと、原典版の楽譜を読むようなものだ。すべてが其処から出発する。そこに頭で理解しようとする意識が働くと、もういけない。音を実際に聴いたときに新鮮な世界が開けるように、このアレクサンダーもまた、新しい身体の使い方の境地が実際に体験することで見えてくる。頭も身体も空っぽにしてそこから出発するのだ。